
留学中の話です。
外に出かけても誰とも話さずに家へ帰る。日本ではよくあることです。
でも、ニューヨークではそうもいきません。外に出れば、他人であっても必ず誰かと会話が生まれます。僕はだいたい、一日5人くらいの知らない人と話していたような気がします。
信号待ちで急に声をかけられる
ある日。いつものようにウォークマンで音楽を聴きながら、ぼんやり信号待ちをしていました。すると隣の人たちがこちらを見て、なにやら話しかけてきます。
そんなことは日常茶飯事でしたが、この日はちょっと様子が違いました。横を見ると、ドラッグクイーンのお姉さんが2人。
『なにかな?』とイヤホンを外すと——
「そんなつまんなそうな顔して歩いてちゃダメよ!」
……え?急にダメ出し!?
完全に面食らいました。
『そんなことないけどな……』と思いつつ、軽く心にダメージをくらいつつ、「OK」とだけ返してスルー。
ところが隣にいたスーツ姿のお姉さんが、すかさず口をはさみます。
「そんなことないわよ。安心しなさい。」
……すると今度はドラッグクイーンが反論。
「いいえ、彼には笑顔が必要よ!」
あっという間に議論がヒートアップ。僕を挟んでお姉さん同士が言い合いを始めてしまいました。(笑)
やっと信号が変わる
『なんなんだ、この状況は!!!』
僕はただただ心の中で「早く信号、変わってくれ!!」と祈っていました。たぶん30秒もなかったはずなのに、永遠に感じました。
そしてやっと青信号。
「バーイ!」
ドラッグクイーンたちは笑顔で手を振り、スーツのお姉さんは曲がっていきました。まるで何事もなかったかのように、カラッと去っていきました。
残された僕は、ただただ呆然。
『……なんだったんだ、今のは。』
でもその日以来、できるだけ“つまらなそうな顔”にならないよう気をつけていました。
ニューヨークは本当に、不思議でおもしろい街です。